2025/12/26号 8面

あなたの職場を憂鬱にする人たち

あなたの職場を憂鬱にする人たち 舟木 彩乃著 舟木 彩乃  『あなたの職場を憂鬱にする人たち』というタイトルから、本書を、被害者の視点から「加害者を分析するための本」と思った人が多いのではないでしょうか。  もちろん、本書には、そのような視点からの分析も多く含まれています。筆者も、「この人さえいなければ……」という人間関係の苦悩を味わったことがありますし、カウンセラーとしてそのような悩みを聞かない日はありません。  しかし、本書は、加害者と被害者を分ける境界線自体が、極めて主観的で不安定であることを前提として書かれています。  「わたしの常識は他者の非常識であり、他者の常識は自分の非常識かもしれない」と考えたことはあるでしょうか。他者が誰かを加害者と考える尺度と、自分がその誰かを加害者と考える尺度は同じではありません。あなたが「これくらいのことで……」と思うような言動が、誰かにとっては深刻なハラスメントになっていることがあります。あなたを憂鬱にしている「あの人」は、他者から見れば被害者かもしれません。  本書ではもう一つ、自分の感情は何から影響を受けているのか、ということもテーマにしています。  人間は、感情というものに支配されやすい生き物です。感情は、なにかしらの出来事(刺激)によって生み出されますが、出来事の全体をそのまま捉えられる人は皆無です。捉え方というものは、生まれ育った環境やセルフイメージ、信念などによって影響を受けていることから、多かれ少なかれ〝認知の歪み〟が生じているのです。認知の歪みが大きいと、深い怒りや悲しみなどの感情が湧き起こることがあります。このような感情に翻弄され、大きく人生が変わってしまったり、ときには命を落としたりすることもあります。  「感情」に焦点をあてたときに意識したいことは、ネガティブな感情を引き起こす「トリガー」の正体です。たとえば、「自分は誰からも必要とされない人間だ」と思い込んでいると、メールの返信が遅いことやLINEの既読スルーがトリガーとなり、「自分は軽んじられている」という歪んだ認知と大きな怒りが湧いてきます。ネガティブなトリガーとの対峙は痛みを伴いますが、これまで蓋をしてきた違和感や自分が作り上げてきたセルフイメージについて考えていけたら、もっと深く自分を知るきっかけになるでしょう。  本書の前書きで私は、孫子の兵法の「敵を知り、己を知れば百戦危うからず」を引用しました。事例を丁寧に読み込んでいくと、その言動に至った加害側(敵)の背景を深く知ることができ、自分(己)は敵をどのように捉えているのかが分かってきます。敵と己という二つの視点から人間関係を捉えていくと、目の前の敵は、実は敵ではなかったという可能性もでてきます。  人間関係の中で、自分の人生や社会にとって意味がある問題にだけ真剣に対峙するというような、健全なしたたかさを、本書を通じて手に入れていただきたいと思っています。(ふなき・あやの=心理学者・株式会社メンタルシンクタンク副社長)(一九二頁・九六八円・集英社インターナショナル)

書籍

書籍名 あなたの職場を憂鬱にする人たち
ISBN13 9784797681642
ISBN10 4797681640