2026/05/29号 8面

サッカー英語の語彙・表現小辞典

著者から読者へ=『サッカー英語の語彙・表現小辞典』(田中芳文)
著者から読者へ サッカー英語の語彙・表現小辞典 田中 芳文  二〇〇六年のワールドカップ決勝の翌日、英国『デイリーメール』紙の記事の見出しは、“France lost in a red mist”(「フランスは赤い霧に包まれて敗れた」)で、決勝の延長後半に起きた「事件」を伝えていた。フランス代表のジダンが、挑発してきたイタリアの選手に頭突きを見舞って一発退場となったのである。『オックスフォード英語辞典』によると、怒りや興奮によって頭に血が上り、視界が妨げられているように感じる生理的状態を表すred mistは、通常は比喩的に「判断力を曇らせるほどの激しい感情の爆発」の意味で、主に英国で一八四四年から使われる語である。同辞典が収録する六つの用例のうち、一九九二年と二〇〇二年の用例は、サッカーの試合中に起きたラフプレーのシーンを伝えるものである。  試合終了直前の劇的なゴールシーンを伝えるメディア報道では、「手足」の意味のlimbの複数形limbsが現れる。ゴールが決まった瞬間、スタジアムが歓喜の渦に包まれ、選手やサポーターたちが跳びはね、抱き合い、腕を空に突き上げて熱狂する様子を表すもので、特に興奮した場合にはabsolute limbsとなる。  サッカー少年だった頃、田舎でもたまに放映していた『ダイヤモンドサッカー』を通して海外のサッカーに触れることはできたが、ベッケンバウアーやクライフが活躍したワールドカップは別世界の出来事だった。しかし、Jリーグ発足後、日本人選手の海外挑戦が始まり、日本代表が目標はワールドカップ優勝だと公言する現在は、メディアを通じて英語で海外のサッカーに触れる機会は劇的に増加している。  本書は、メディア等に登場するサッカーの英語表現をアルファベット順に項目を立てて解説する「読む辞典」である。用例を検討する際には、ウェブ上で入手できる資料や動画を使って、試合経過やその英語表現が使用される場面を丹念に確認した。巻末には豊富な英語索引と日本語索引が付いているので、そこから気ままに拾い読みすることもできる。二〇一〇年のワールドカップ、デンマーク戦で本田圭佑が直接フリーキックをゴールに叩き込んだ「無回転シュート」は英語で何と呼ぶのか。「ゲームメーカー」や「フィールドプレーヤー」は英語で通じるのか。「ボックス内のキツネ」とはどんな選手なのか。その都度、楽しい発見があり、英語を通してサッカーを見る眼が少しずつ変わっていくはずである。(たなか・よしふみ=島根県立大学名誉教授・英語学・社会言語学)

書籍

書籍名 サッカー英語の語彙・表現小辞典
ISBN13 9784758912297
ISBN10 4758912297