2026/10/16号 6面

寡頭制と闘え!

寡頭制と闘え! バーニー・サンダース著 前嶋 和弘  サンダースの選挙集会に現地で何度か参加したことがある。どこもいつも似た雰囲気だった。満員の参加者は、猫背で白髪のサンダースの話を漏らさずに耳を傾け、喝采し、気勢を上げ、時には笑う。その様子はまるで名人の落語家の名調子に合わせて反応する、寄席の常連客のようだった。  サンダースの演説そのものも落語に似ている。「枕」でのつかみはいつも似ている。「私がしたいのは政治的革命だ」「権威主義が世界を席巻している」といった意味深な言葉で「この人は何を話すのだろう」とまず、ぐっと引き付けられる。これに続き、「億万長者が牛耳る世界にうんざりしていないか」と畳みかける。  これに続く、落語でいえば「本題」は毎回異なるが、多くは労働者階級や若者向けに構成されたメッセージで、切実な話題に切り込むことが多い。「格差」「富の偏在」「医療保険などの社会保障の不十分さ」などのテーマとともに、「政治家の不作為」などが主なテーマだ。  主張は現状の糾弾だけで終わらない。参加民主主義を信じ、変革の運動を呼びかける。それが落語でいえば「オチ」だ。サンダースは「既存の発想そのものを変えるのだ」とささやく。「自分の安心できる場所を出て、行動に移そう」、「同じ思いの人たちと団結しよう」、「やれることから少しでも前に進んでいこう」と畳みかける。  サンダースの演説はいつもこの前向きな姿勢で終わる。大きな拍手の中、その場の雰囲気で「ありえるかも」と思わせてしまう。こうして無力感を抱いていた参加者はその後、一歩、歩み出すことができる。  本書はそのサンダースの名調子を文字化したものだ。テーマはアメリカ政治の根本にある問題であり、ここ数年サンダースが取り組んでいる「寡頭制(Oligarchy)」だ。 「寡頭制」とは少数の極めて裕福な個人が国家を支配する体制である。アメリカの上位1%の富は、下位93%を合わせたものよりも大きい。4000億ドルもの資産を持つイーロン・マスクはたった一人で、アメリカの全世帯の中の下位52%以上の富を独占している。  富の偏在は構造的だ。ヴァンガード、ブラックロック、ステート・ストリートという3つの資産運用会社が、S&P500という主要企業群の95%の主要株主となっている。それは情報をつかさどるメディア企業の株も支配する。  アメリカの政治、経済の様々な決定はこの大金持ちが牛耳っており、何百万人ものアメリカ人を苦境に追いやっているというのがサンダースの主張だ。  例えば、先進国にとって公的な医療サービスはは当然認められる人権であるはずだが、これを阻むのが大金持ちたちである。なぜなら儲からないためだ。高齢者や障がい者以外の大多数のアメリカ国民は民間保険に入らなければならない。企業の論理で高騰する医療費(他の主要国の倍だ)と保険料(ピンキリだが、日本円で毎月10万円を超えることはざらだ)の中で、約8500万人が無保険か不十分な状態に置かれてしまっている。医療費を払えないために亡くなってしまう人が年間6万人を超えるのは残念ながら必然なのかもしれない。  興味深いのは、トランプの選挙運動を白人ブルーカラー層の息苦しさに支持された「運動」としてサンダースは一定程度、評価している点だ。「ほとんどの民主党議員と違ってトランプは、現在の経済システムは破綻しており、大多数のアメリカ国民を失望させているという認識のもとで選挙を展開した。(中略)何千万人もの人々が政治に裏切られたと感じ、(中略)変化を切望していることを理解していた」(30―31頁)とする。 ただ、トランプが第二次政権で実際に進めたことをサンダースは真っ向から否定する。トランプは病的な噓つきの大衆扇動家であり、「無力なマイノリティに責任を転嫁し、卑劣で会う意に満ちた不誠実なレトリックを使って社会問題を彼らのせい」(36頁)にし、憎悪、恐怖、対立をあおっていると断罪する。特にトランプ政権が進めた全国労働関係委員会(NLRB)の事実的な解体や、医療保険制度をさらにないがしろにした共和党主導で立法化された「大きく美しい法案(OBBB)」は、労働者の惨状をさらに深刻にすると懸念する。  それではどうすればいいのか。サンダースの処方箋は明快だ。人々の基本的なニーズを保証することだ。そのために普通の国民の声が政治に反映されるように民主主義を強化していく。労働者の賃金と福利厚生を重視し、団結権を強化する。富裕層に対して公平な税負担を求めていく。それが、サンダースが長年訴える、国が運営する国民皆保険である「メディケア・フォー・オール」を達成するための道程だ。そのためには、公教育の充実や、不要な軍事介入なども抑える必要もある。  サンダースは、シンプルで曲げない。わかりやすい。そして妥協をしない。それもあって、サンダースは議会の中で、長年孤高の人だった。しかし、サンダースの姿勢への共感は次第に広がってきた。オカシオ=コルテス下院議員や、ニューヨーク市長のマムダニに代表されるようにサンダースと同じ方向性で立ち上がり、人気を集める進歩派の政治家も次第に増えてきた。サンダースが主張してきた「民主社会主義」は今年の中間選挙を読み解く最大のキーワードの一つとなっている。本書の巻末には、サンダースのこれまでの動きと民主社会主義運動の広がりを的確にまとめた三牧聖子氏の解説もあり、そちらも必読だ。(中村みずき訳・三牧聖子解説)(まえしま・かずひろ=上智大学教授・現代アメリカ政治外交)  ★バーニー・サンダース=アメリカ合衆国連邦議会上院議員(無所属・四期)。バーモント州バーリントン市長、連邦下院議員を務めた。

書籍

書籍名 寡頭制と闘え!
ISBN13 9784868630005
ISBN10 4868630008