日常の向こう側 ぼくの内側 No.712
横尾忠則
2025.10.13 このところデザイナーの全盛期に匹敵するポスターの依頼あり。デザインがアート化し、アートがデザイン化するHIGH&LOWの一体化現象が起こっているせいか。
無為の時間があるとすぐソファに寝そべってしまうが、老齢には不健康とのこと。興味のない読書でもと古典を紐解く。『論語』、ニーチェ、新渡戸稲造、幸田露伴『努力論』と拾い読む。『努力論』はぼくの運命論に反してつまらない。
2025.10.14 〈世田谷美術館に用があって女性の学芸員(塚田さんではない)に会う。現在京都を巡回中の海外の美術館所蔵の浮世絵展が世田谷美術館で開催されることになり、ぼくの作品とコラボしたいと言ってきたと、学芸員は興奮している〉という夢を見る。
玉川病院へ定期診断。心電図の結果は去年、今年とグラフの形がほとんど変らず、心臓は安定している。首の痛みは涼しくなったのでクーラーを暖房に切り替えたせいか、和らぐ。
病院に来たついでにインフルエンザの予防接種のみ打って、コロナはパス。
2025.10.15 〈数人の仲間と拓けた山中を他の観光客に交じって辺りを散策。山の切れ目から眼下に拓けた海が見える。海岸への高い傾斜は危険なので降りるのを中止するが急にトイレに行きたくなって〉目覚める。
原宿の行列のできるうどん店「麵散」のどんぶりなどの食器やグッズの依頼。
この間から大グロが来なくなったと妻は心配していたが、夕方ひょっこりエサをあさりに現われ、妻は大喜び。
ドジャースvs.ブルワーズ戦、山本初回初打者初球ホームラン。その後9回まで完投させたために佐々木出る幕なし。今日のロバーツ監督は誉めよう。
2025.10.16 糸井重里さんが「ほぼ日」にマンガ部を創設。そのポスターの依頼に。
朝日新聞の柏崎さん、木村さん来訪。前期書評編集長と担当者は時々雑談に来訪。雑談は内なる不透明なゴミを吐き出す作用になる。
2025.10.17 建築家の吉野弘さん来訪。磯崎さんのアトリエを一部改造。
イギリスの雑誌「MONOCLE」のインタビューにアジア支局長のフィオナ・ウィルソンさん来訪。婦人警官の取り調べを受けているようだった。
この間からアトリエに新しいソファが入ったので、終日寝ころがっている。
2025.10.18 週刊新潮に連載中のエッセイの前半1年分を編集して、新潮新書として新年早々出版されるが、そのゲラ校正。メンドー臭いのでザット通読して、あとは編集部におまかせ。
ドジャース、ナショナルリーグ優勝。大谷3ホーマーのまとめ打ち。二刀流の選手はベンチに籠らずに野手としてグローブをつけてグランドに出ることで、今日のような活躍ができるはずだ。解説は技術論ばかり語っている。
2025.10.19 〈久世光彦さんと久し振りに会って、積もる話などするが、久世さんが死んで間もなく、あちらにいる久世さんとコンタクトした時の話をすると、彼は急に黙ってしまって一言も話さなくなってしまった。まずい話をしてしまったようだ〉と思うところで目が覚める。
〈昔、このアトリエの前にいたスタジオの近所の喫茶店があって、久し振りに顔を出すが知らんぷりを装われる〉という夢。
コンビニにこの間から焼芋が売られ始めたので、昼食はおにぎり2個と焼芋。雨が降りそうなので傘を買う。今まで傘など買った記憶は全くないので、何となく嬉しくなるが、雨が降らずがっかりする。
運動不足解消のためにアトリエ内を300歩ほど歩く習慣は貝原益軒の教え。歯が痛い時は歯をカチカチ36回嚙むのも『養生訓』の教え。風呂は10日に1回と言うが、これは少な過ぎる。(よこお・ただのり=美術家)
