自滅帳

人はなぜ自滅するのか。「死の欲動」が暗躍する闇世界に、なぜ引き摺り込まれ、沈みゆくのか──。精神科医・春日武彦が描く、「自滅」をテーマにした13篇の文学案内。海外編7作、日本編6作を取り上げ、破滅へ傾く人物たちの姿を描いていく。紹介作品は、パトリシア・ハイスミス、ジョン・チーヴァー、デルフィーヌ・ド・ヴィガのほか、吉行淳之介、林芙美子、松本清張らの短篇も含まれ、名作もあれば、忘れられた小品もある。これら作品の自滅者たちを紹介しつつ、著者自身の記憶や妄想が交錯する断章を織り交ぜて、読者をほの暗い精神の深淵に引きずり込む。好評既刊『自殺帳』の姉妹編とも言うべき内容。

“わたしは今までの人生で、自滅していく人たちを案外沢山目にしてきたような気がする。彼らは自暴自棄に陥っていたり、ふて腐れた挙げ句のセルフネグレクト的な生き方であったり、チープな「滅びの美学」に酔っていたり、緩慢な(あるいは生煮えの)自殺であったり、罪悪感の清算であったり、傲慢であったがための必然的な報いであったり、怠惰と自己欺瞞の結果そのものであったり、世間知らずゆえの悪因悪果であったり等々、さまざまな経緯から自滅へと到達していた。ではそのときに彼らはどのような心持ちであったのだろうか。”(「はじめに」より)

【目次】
はじめに
01 淫景松本清張『断崖』
02 満ち足りた生活デルフィーヌ・ド・ヴィガン『子供が王様』
03 いじましい人吉行淳之介『痴』
04 束の間の救いパトリシア・ハイスミス『手持ちの鳥』
05 トランジスターグラマー 林芙美子『牛肉』
06 死に際して思い返す景色ウィリアム・トレヴァー『ピアノ調律師の妻たち』
07 なめるなよ笠原淳『サイモンの塔』
08 異物 H・E・ベイツ『愛ならぬ愛』
09 不死の人丹羽文雄『虚実』
10 はたらくこどもアレクサンダー・マクラウド『ループ』
11 隻脚の画家有馬頼義『小隊長、前へ』
12 蟹っぽいジョン・チーヴァー『ライソン夫妻の秘密』
付録犀を贈るトム・フランクリン『ダイノソア』
おわりに
著者 春日武彦
出版元 晶文社
頁数 376頁
発行日 2025-09
ISBN13 9784794980151
ISBN10 4794980159

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